高松高等裁判所 昭和49年(う)62号 判決 1974年5月30日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人加藤茂作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は高松高等検察庁検察官正木良信作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。
控訴趣意に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
一 法令適用の誤を主張する論旨について。
所論は要するに、原判決認定の窃取の目的物たる青石は、谷川にあつた流転石であつて、森林の産物と解することはできない。しかるに原判決は、これを森林の産物とし、被告人を森林法違反で処罰しているので、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、破棄を免れない、というのである。
よつて考えるに、告発状添付の盗石現地見取図並びに写真(記録一五丁以下)によれば、本件青石が、本件山林内を流下する細い谷川附近に在つたものであることが認められる。しかしその石が水力等により上流から移動してきたものか、もともとそこに埋没していた岩石が、水力で露出し、永年谷川に洗われてそのはだがなめらかにたつたにすぎないものか、これを知るに由ないものであるとともに、仮にそれが、山の歴史の或る時点において、上流から移動してきたものであるとしても、その時期は遥かに遠くその期および元の所在地を知ることができず、現にそれが本件山林内に他の土石と混在し、その土地の一部となつている以上、これを流転石として他の土石と区別し、法律上別個の取扱をなすべきものとすることは相当でない。そして森林法一九七条が、森林においてその産物を窃取した場合を、刑法二三五条の窃盗と区別し、特に軽く処罰することとした立法趣旨に鑑みると、同条の産物中には、森林内より取出して利用し得る土石、砂利等の無機的産出物をも含むものと解するのを相当とするので、本件青石を森林の産物と解し、被告人を森林法違反に問擬した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法はなく、論旨は理由のないものといわなければならない。
二 量刑不当を主張する論旨について。
所論は要するに、原判決の量刑は不当に重く、破棄を免れないというのである。しかし本件は、被告人が主犯となり、数人を使役して保安林内に大がかりな設備をなし、計画的に石を窃取してもうけようとした事件であり、結果的には青石約五トンを窃取したにすぎないけれども、その犯行の動機、態様は悪質であり、その他被告人の前科等をも考慮すると、原判決の懲役四月は必ずしも重きにすぎるものということはできず、被告人がはじめて子を儲け、更生の途を考えている等論旨指摘の被告人に有利な事情を考慮しても、いまだ原判決を破棄しなければならないものとすることはできない。従つてこの論旨も採用できない。
よつて、刑訴法三九六条により、主文のとおり判決する。